薬事スタッフ・コンサル選定ガイド
医療機器や医薬品等の開発において、薬事は避けて通れません。一方で、丸投げにすると膨大なコストがかかってしまいます。コスパの良い方法を考察します。
@K.Kamitani
- 採用する前に知っておくべきこと
- 薬事がわからないから、薬事経験者や薬事コンサルを採用する、というのは少し性急すぎます。本当に必要かよく確認してから動きましょう。
- まず、そもそもスタートアップが自社で薬事承認申請までやるのか、という点です。医薬品系スタートアップであれば、開発途中までは自社でやるものの、あとは製薬メーカーにライセンスアウトするので自社で薬事をやる必要がありません。医療機器系スタートアップでも、自社ではリソースやネットワークがないので、製造販売業許可や販路を持つ企業に薬事承認申請、販売を任せることが多いです。
- 事業計画策定の段階で、自社がどこまでやるのかを想定した上で、薬事にかけるリソースも合わせて計画することになります。
- 次に、仮に自社で薬事業務をする必要があるとしましょう。
- 実際、スタートアップでは、未経験の方が薬事を担当することも多くあります。それができるいくつかの理由があります。
- 一つは、そもそも薬事承認を得るためには、何をするにもPMDAと事前に合意をしておく必要があるためです。薬事コンサルが何をアドバイスしようが、決めるのは規制当局(PMDA)です。つまり、薬事スタッフやコンサルを雇っても、彼らは結局PMDAと相談する必要があるのです。
- もう一つは、他のコンテンツでもお伝えしているように、今は公的機関で情報、助言、そして伴走支援まで無償で受けることができます。MEDISOでは、相談者が希望すれば、PMDAとの面談に中立的な立場で同席してくれ、その後のfollow up meetingでどういったことが話し合われたかを再確認することができます。そのため、薬事にとどまらず、「情報や助言は無償で公的機関から受け、実務をコンサルに有償対応してもらう」ということがスタートアップの基本的なスタンスになります。
- さらに、PMDAではRS相談という、薬事経験者が少ないアカデミアやスタートアップを対象とした相談窓口があります。最初のRS総合面談では、どのように相談していったらよいかも教えてくれます。
- 以上のことから、自社のリソースではそもそも何も対応できないという場合に、薬事経験者や薬事コンサルを採用して、実務対応してもらうことが、コスパ、タイパがもっともよい、ということになります。
- まずは自社のニーズを明確にする
- 最初のステップは、自社の状況を客観的に整理し、何が自社でできないのかを具体化することです。以下の視点で自社の現状と課題を洗い出してみましょう。
- 事業フェーズはどこか?
- 自社の製品開発が、アイデア段階、基礎研究、基本設計、非臨床試験、臨床試験準備など、どの段階にあるかを明確にします。フェーズによって、必要となる業務は大きく異なります。
- 不足している専門性は何か?
- 自社製品の特性(例:プログラム医療機器、再生医療、バイオ医薬品など)に応じた専門知識や、PMDA相談、臨床試験デザイン、海外規制対応など、具体的にどの知識が不足しているかを洗い出します。
- 社内のリソースは十分か?
- 薬事申請を担う専任担当者がいるか、いない場合、情報と助言があれば代替できそうなメンバーがいるかなど、社内の体制を確認します。リソースが不足している場合、実務をやってくれるスタッフまたは薬事コンサルを雇う必要があります。
- 当面の最大の課題は何か?
- 「PMDAとの最初の接点が分からない」「過去の相談がうまくいかなかった」「申請資料の作成リソースがない」など、今、事業を進める上で何が最大の障壁になっているかを特定します。これにより、情報と助言が必要なのか、それとも実務リソースが足りないのか、を判断します。
- 予算と期間は?
- コンサルティングにかけられる費用の上限や、いつまでに何を達成したいのか、という時間的な制約を整理します。
- これらの分析を通じて、雇用するスタッフやコンサルタントに求める要件(専門分野、支援内容、役割など)を言語化し、明確な依頼事項として整理することが、ミスマッチを防ぐ上で最も重要です。
- 支援形態を理解する
- 自社のニーズが明確になったら、薬事コンサルが提供する様々な支援形態を理解し、ニーズに合ったタイプを見極めます。
- スポットコンサル型
- 特定の課題や疑問点について、単発でアドバイスを提供します。社内に薬事担当者がいるものの、特定の高度な論点について専門家の意見が欲しい場合に適しています。
- 顧問契約型
- 定例ミーティングなどを通じて、継続的に戦略的な助言や意思決定を支援します。ただし、実務は自社で行うことが前提となります。費用は月額固定制が中心です。
- 実務支援・プロジェクト型
- PMDA相談資料の作成、品質管理システム(QMS)の構築、承認申請書の作成といった、具体的な成果物の作成や申請業務を代行・支援します。費用はプロジェクト単位で設定されます。
- 戦略パートナー型
- 開発の初期段階から承認取得、さらには保険償還や市販後に至るまで、事業全体にわたって包括的かつ長期的に伴走します。費用は高額な月額固定制や成功報酬制が採用されます。
- スタッフ型
- 契約形態は様々ですが、自社のスタッフとして薬事業務を担当します。業務委託契約等であれば、業務範囲や期間を柔軟に調整できるため、スタートアップではよく活用されます。複業人材をプールする人材紹介会社経由で採用します。
- 自社のニーズと照らし合わせることで、どの支援形態が最適かが見えてきます。前述のとおり、情報・助言は無償で公的機関から得られるので、既存スタッフが薬事を兼任するか、業務委託契約で薬事業務を担当してもらうパターンが多いです。これに加えて、リソースや経験値により、実務を外部コンサル等に依頼する形になります。
- 外部依頼先の選択肢を比較検討する
- 自社のニーズと求めるコンサルティングの種類を理解した上で、具体的な依頼先を検討します。それぞれに特徴があるため、慎重に比較します。
- ARO(Academic Research Organization)
- 大学病院などが母体となる研究支援組織です。アカデミアやアカデミア発スタートアップの場合は、最もコスパがよいので検討の価値ありです。
- CRO (Contract Research Organization)
- 基本的には臨床試験の受託がメインですが、どこも薬事コンサルティングをファンクショナルサービスとして提供しています。臨床試験のノウハウを一番持っているので、パッケージで対応してもらうと効率的です。海外に拠点を持っているいわゆるグローバルCROであれば、世界的に薬事対応が可能です。
- 薬事コンサルティング会社
- 薬事に特化したコンサルティング会社です。フリーの薬事コンサルタントよりも費用は高額になりがちですが、実務リソースが全くない場合は選択肢となります。小さい会社ですと、日本しか対応できず、国ごとに薬事コンサルを探さなければいけない点は注意が必要です。
- 薬事コンサルタント
- いわゆるフリーランスで薬事業務を請け負う個人です。コンサル会社に委託するよりも割安になる可能性がありますが、当たりはずれが大きく、リスクも高くなります。
- 留意点
- 選定時に気を付けたいのは、担当する人の経験値になります。元々製薬メーカーなどで薬事業務をやっていた方などが多いのですが、部署内で分業化されているので、全体を経験している人はあまりいません。そもそも、医薬品と医療機器はかなり違いますし、薬事も保険収載も両方やった人は少ないものです。そのため、基本的には、個人よりも会社のほうが対応力がありますし、万一良くない担当者に当たった場合でもスイッチしてくれる可能性があります。やってほしい業務の経験はしっかり確認してください。
- スタートアップへのお勧め
- 一番コスパのよい方法は、できるところまで既存スタッフでやってみることです。
- AIをフルに活用してみてください。使い方によってはかなりの精度で具体的な対応方法を教えてくれます。
- そのうえで、どうしてもヘルプが必要ということであれば、基本的には、本当に必要な時だけ人を採用する、それも委受託契約がよいでしょう。日本では、正社員を採用すると、解雇することが難しいのが現実です。
- それでもうまく回らない時に、外部の薬事コンサルティングを活用するのもよいでしょう。
- いずれにしても、どの部分が自社でできないから委託したい、ということを明確にすることが重要であり、それによっておのずと適切な選択をしやすくなります。
@K.Kamitani