保険収載ガイド
医療機器・体外診断用医薬品 保険収載のガイド
本ガイドは、ライフサイエンス系スタートアップやアカデミアの研究者の皆さんが、保険収載制度や対応方法を大まかに理解していただくことを目的にしています。
日本の保険制度について
日本は国民皆保険制度を採用しており、国民は公的医療保険への加入が義務付けられています。医療機関で提供される医療サービスの価格は「診療報酬点数表」によって国が定めており、患者の自己負担は一部(通常1〜3割)です。医療機器や体外診断用医薬品が広く普及するためには、この公的保険の適用を受ける「保険収載」が事実上必須となります。保険収載された医療技術の費用は、主に医師等の「技術料」に包括されるか、特定の要件を満たす場合に「材料価格」として別途評価されます。
参照資料:
厚生労働省. *我が国の医療保険について*. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/database/index.html
厚生労働省. *診療報酬点数表*. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
薬事承認と保険収載
日本の医療市場への参入は、薬事承認と保険収載という、目的も管轄も異なる2つのプロセスを順にクリアする必要があります。薬事承認を得て初めて、保険収載のプロセスに進むことができます。
薬事承認
製品の品質・有効性・安全性を審査し、製造販売の許可を得るプロセス。
管轄:医薬品医療機器総合機構 (PMDA)
保険収載
製品の臨床的有用性・医療経済効果を評価し、保険適用の可否と価格を決定するプロセス。
管轄:厚生労働省 (MHLW)
保険収載の道のり
保険収載のプロセスは複数のステップから成り立ちます。ただし、全ての製品が同じ道のりを辿るわけではなく、A区分やB区分など既存の枠組みに該当する場合はプロセスが簡略化されることがあります。
薬事承認の取得
PMDAから製品の製造販売承認を取得します。これが保険収載申請の絶対的な前提条件です。
事前相談・戦略策定
薬事プロセスと並行し、開発初期から保険収載を見据えた戦略を立て、当局と非公式な相談を行います。
保険適用希望書の提出
薬事承認後、厚生労働省に希望書を提出し、公式な申請プロセスを開始します。
専門組織・部会での審議
専門家が、提出された資料に基づき保険適用の妥当性や該当区分を審議します。
中医協総会での最終決定・告示
中医協で保険適用の可否と価格が最終決定され、正式に保険適用となります。
医療機器の保険適用区分
医療機器の保険適用は、その新規性や既存技術との関係性によって区分されます。どの区分を目指すかが戦略の根幹を成します。
体外診断用医薬品の保険適用区分
体外診断用医薬品の保険収載は、製品(試薬)そのものではなく、それが可能にする「検査行為」の価値が評価される点が特徴です。
申請区分の見分け方(簡易判定ツール)
このツールは、「診療報酬点数表」や「材料価格基準」の考え方に基づき、ご自身の製品がどの申請区分に該当する可能性が高いかを簡易的に判定するものです。
誤解しやすい点について
保険収載を目指す上で、特に医薬品の開発経験がある方が誤解しやすい重要なポイントが2つあります。
ポイント1:全ての機器に個別の価格がつくわけではない
多くの医療機器や体外診断用医薬品の費用は、それらを使用する手技の「技術料」に包括されています。革新性が高く、既存の技術料では評価できないと判断された特定の医療機器・体外診断用医薬品のみが、個別の価格(材料価格や新しい検査料)で評価されます。
ポイント2:価格は「製品」ではなく「機能区分」につく
医薬品は製品(銘柄)ごとに薬価が設定されますが、医療機器の材料価格は個々の製品ではなく、類似の機能を持つ製品群をまとめた「機能区分」というグループに対して設定されます。したがって、全く新しい機能区分(C区分)を創設するか、既存の機能区分の中で高い評価(補正加算)を得ることが目標となります。
参照資料:
厚生労働省. (2024). *特定保険医療材料の保険償還価格算定の基準について*. https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001218708.pdf
高い保険点数へのアプローチ
高い保険点数が期待できる新規区分(医療機器のC区分、体外診断用医薬品のE3/D区分)を目指すためには、計画的かつ戦略的なアプローチが不可欠です。
1. 情報収集・整理
まず、自社製品と類似技術に関する薬事情報(一般的名称、承認・認証区分等)と、それに対応する保険情報(診療報酬項目、既存の機能区分等)を徹底的に調査・整理します。
2. 差異の明確化と比較表の作成
既存の診療フローと、自社製品を用いた新しいフローを比較し、臨床的価値や効率性にどのような差異(メリット)が生まれるかを分析します。この差異を客観的に示すための比較表を作成することが極めて重要です。
3. 厚生労働省との事前相談
比較によって明確になった差異に基づき、目指すべき償還区分の妥当性について厚生労働省に事前相談します。この相談は、少なくとも臨床試験(治験)を開始する前に行うべきです。
留意点
- C2区分として承認されるのは年間平均約25件とハードルは非常に高いです。また、薬事承認から保険収載までの一連のプロセスには通常1年以上を要します。
- 保険の評価は、薬事承認された範囲(使用目的・効果)を超えることはありません。薬事での評価が保険での評価の土台となります。
- C区分を目指す場合、治験段階から臨床的な有用性や医療経済上の有用性を示すデータを計画的に取得する必要があります。
- これらの点から、薬事承認と保険収載は別々のプロセスでありながら、一体の戦略として開発初期から練り上げることが成功の鍵となります。
公的相談窓口の紹介
保険収載プロセスは複雑であり、多くの専門知識を要します。開発の早い段階で、公的機関の相談窓口や専門コンサルタントを活用することが、成功への近道です。