医療機器・体外診断用医薬品 保険収載のガイド
本ガイドは、ライフサイエンス系スタートアップやアカデミアの皆さんに、医療機器や体外診断用医薬品の保険収載制度や対応方法を大まかに理解していただくことを目的にしたものです。
医療保険制度と保険収載のクイックサマリー
参照資料:
薬事承認と保険収載プロセス
薬事承認と保険収載製品の上市にあたっては、薬事承認と保険収載という、目的も管轄も異なる2つのプロセスを順にクリアする必要があります。薬事承認を得て初めて、保険収載のプロセスに進むことができます。
保険収載については、厚労省の「医療機器・体外診断用医薬品の保険適用について」、特に同ページに掲載されているガイドブックを読めば対応できます。
保険収載のプロセス保険収載のプロセスは複数のステップから成り立ちます。ただし、全ての製品が同じ道のりを辿るわけではなく、A・B区分(多くの場合はこれ)などはプロセスが簡略化されます。
医療機器の保険適用区分
機能区分とは?
体外診断用医薬品の保険適用区分
誤解しやすい点について
新医療機器でC2区分を目指す場合
革新的な技術を持つ新医療機器で、かつ該当する既存の手技もないような場合は、C2区分で高い保険点数がつく可能性があります。以下の作業は他の区分であっても有用です。
留意点:
医療保険制度と保険収載のクイックサマリー
- 日本の医療保険制度と保険収載について日本は国民皆保険制度を採用しており、国民は公的医療保険への加入が義務付けられています。
- 医療機関で提供される医療サービスの価格は「診療報酬点数表」によって国が定めており、患者の自己負担は一部(通常1〜3割)です。
- 日本における医療機器の保険償還制度は、診療中に使用される医療機器や医療材料が技術料に包含される「技術料包括」(A区分)と、機器自体の価格が個別に設定され別途請求可能な「特定保険医療材料」(B及びC区分)に大別されます。
- 多くの医療機器は、技術料に包含され個別に算定されない「技術料包括」(A区分)であり、一部の機器には「特定保健医療材料」として別途材料価格がつきますが(B区分)、高い点数が付くC区分はごく一部の革新性の高い機器のみとなります。
参照資料:
薬事承認と保険収載プロセス
薬事承認と保険収載製品の上市にあたっては、薬事承認と保険収載という、目的も管轄も異なる2つのプロセスを順にクリアする必要があります。薬事承認を得て初めて、保険収載のプロセスに進むことができます。
- STEP 1: 薬事承認
- 目的: 製品の「品質・有効性・安全性」を審査し、製造販売の許可を得るプロセス。
- 管轄: 医薬品医療機器総合機構 (PMDA)
- STEP 2: 保険収載
- 目的: 製品の「臨床的有用性・医療経済効果」を評価し、保険適用の可否と価格を決定するプロセス。
- 管轄: 厚生労働省 (MHLW)
保険収載については、厚労省の「医療機器・体外診断用医薬品の保険適用について」、特に同ページに掲載されているガイドブックを読めば対応できます。
保険収載のプロセス保険収載のプロセスは複数のステップから成り立ちます。ただし、全ての製品が同じ道のりを辿るわけではなく、A・B区分(多くの場合はこれ)などはプロセスが簡略化されます。
- 薬事承認の取得
- PMDAから製品の製造販売承認を取得します。これが保険収載申請の前提条件となります。薬事承認申請でどのような「使用目的・効果」を謳うかが、保険収載の議論に直接影響するため、薬事と保険のプロセスは一体の戦略として進める必要があります。
- 事前相談・戦略策定
- 公式な申請手続き以上に重要とも言えるのが、申請前の準備段階です。事前相談は、薬事承認前から活用することが可能です。
- このフェーズでは、自社の製品がどの区分に該当しそうか、既存の診療報酬項目や既存品との差異をチェックしながら確認します。
- 疑問があれば、相談用の資料を十分にまとめたうえで、厚労省の事前相談制度を活用します。基本的には、治験を実施する前には、一度厚労省産情課と相談するとよいでしょう。ガイドブックの中に、相談先、相談受付票の書式も掲載されています。
- 保険適用希望書の提出
- 薬事承認後、製品概要、臨床試験成績、希望する保険償還価格とその算定根拠などを記載した「保険適用希望書」を厚生労働省保険局医療課に提出します。
- 専門組織・部会での審議
- 提出された希望書は、臨床や技術の専門家で構成される「保険医療材料等専門組織」などで詳細に審査されます。
- 中医協総会での最終決定・告示
- 中医協で保険適用の可否と具体的な価格が最終決定され、官報で告示されることで正式に保険適用となります。
医療機器の保険適用区分
- A区分 (技術料包括)
- 製品の費用が、それを用いる医療行為の技術料に包括(含まれる)される区分です。
- (A1) 包括: 既存の診療報酬項目において包括的に評価されます。
- (A2) 特定包括: 特定の診療報酬項目において包括的に評価されます。
- (A3) 既存技術・変更あり: A1, A2に該当する製品で、算定上の留意事項等の変更を伴うものです。
- B区分 (特定保険医療材料・既存機能区分)
- 既存の「機能区分」に該当し、技術料とは別に製品の価格(材料価格)が評価される区分です。
- (B1) 既存機能区分: 既存の機能区分にそのまま該当する場合。
- (B2) 既存機能区分・変更あり: B1に該当する製品で、機能区分の定義等の変更を伴うものです。
- (B3) 期限付改良加算: 既存の機能区分に対して、臨床上の有用性の向上などを評価し、期限付きで価格が上乗せされます。
- 参照
- C区分 (特定保険医療材料・新機能)
- 既存の枠組みに収まらない革新的な医療機器が目指す区分です。新たな機能区分そのものが創設されます。
- (C1) 新機能: 新たな機能区分が必要で、それを用いる技術は既に評価されています。
- (C2) 新機能・新技術: 当該製品を使用する技術もまだ評価されていません。
機能区分とは?
- 一言でいうと、医療機器の材料価格を決めるための「グループ」や「カテゴリ」のことです。
- 医薬品との大きな違い
- 医薬品の場合: 「ロキソニン錠」や「カロナール錠」のように、製品ごと(銘柄ごと)に薬の価格(薬価)が決められます。
- 医療機器の場合: A社のペースメーカー「X-1」や、B社のペースメーカー「Y-2」のように製品ごとではなく、「心臓ペースメーカー」という機能区分(グループ)に対して価格が決められます。
- なぜ「機能区分」があるのか?
- 医療機器は種類が非常に多く、小さな改良が頻繁に行われます。それら一つ一つの製品に価格を設定するのはとても大変です。そこで、構造・使用目的・機能が似ている製品をグループ化し、そのグループに対して一つの価格を設定することで、公平で効率的な価格決定を行っています。
- BかCか
- 既存の機能区分に入る場合 (B区分):
- すでに市場にある類似製品と同じグループに入るため、価格はそのグループの基準価格になります。
- 新しい機能区分を作る場合 (C区分):
- 自社の製品がどの既存グループにも当てはまらないほど革新的な場合、「新しい機能区分(新しいカテゴリ)」を作ってもらうことを国に申請します。これは難しい挑戦になりますが、成功すれば製品の革新的な価値に見合った、全く新しい価格(保険点数)を設定してもらえる可能性があります。
- 既存の機能区分に入る場合 (B区分):
体外診断用医薬品の保険適用区分
- E区分 (検査料)
- 検査行為の価値が評価され、検査料として点数が設定される区分です。
- (E1) 既存項目: 測定項目・測定方法ともに既存の場合。
- (E2) 既存項目・変更あり: 測定項目は既存だが、測定方法が新しい場合に適用されます。
- (E3) 新項目、改良項目: 測定項目が全く新しい場合、または既存項目でも技術改良により臨床的意義が大幅に向上する場合に適用されます。
- D区分 (判断料)
- 検査結果の解釈に、専門的な医学的判断を要する複雑な検査が対象となる区分です。遺伝子関連検査やコンパニオン診断薬などがこの区分を目指します。
誤解しやすい点について
- 全ての機器に個別の価格がつくわけではない
- 多くの医療技術の費用は、それらを使用する手技の「技術料」に包括されています。予め指定されている機器や革新性が高いと判断された機器のみが、個別の価格で評価されます。したがって、技術料に包括された医療機器の場合、医療機関や医師が特定の医療機器を使用するインセンティブはほとんどありません。
- 価格は「製品」ではなく「機能区分」につく
- 機能区分が設定されている機器の場合、医薬品とは異なり、医療機器の価格は個々の製品ではなく、「機能区分」に対して設定されます。つまり、同じ機能区分の製品であれば同じ評価となるので、保険点数上での競合品との差別化はできないことになります。
- 上記の点は、そもそも医療機器にする必然性、ビジネス上のメリット・デメリットをあらかじめ検討するポイントにもなります。
新医療機器でC2区分を目指す場合
革新的な技術を持つ新医療機器で、かつ該当する既存の手技もないような場合は、C2区分で高い保険点数がつく可能性があります。以下の作業は他の区分であっても有用です。
- 情報収集・整理:
- 自社製品と既存製品(技術)に関する薬事情報と保険情報を徹底的に調査・整理します。本サイトやガイドラインなどを参考にしながら整理してみてください。薬事に関しては、PMDAの一般的名称検索ページや添付文書検索ページなどを使うとよいでしょう。また、保険に関しては、既存製品や技術が該当すると思われる診療報酬項目を見るとよいでしょう。
- 差異の明確化:
- C2区分を目指す場合、この作業がとても重要になります。
- C2区分を目指す場合、ほぼ必然的に新医療機器を目指すはずですが、薬事的にも、保険的にも共通することは、規制当局に対して、「自社の製品(およびそれを使用する手技)は、既存の製品/一般的名称(およびそれを使用する手技)とは、この点に革新性、優位性があって違うんですよ、だから認めてくださいね」ということを証明するプロセスであるわけです。
- したがって、それをわかりやすく説明するために、収集した情報をもとに、製品、技術、一般的名称、診療フロー等の観点から、新、旧(既存)、差異を表にして、客観的に革新性、優位性を示すとよいと思います。
- 厚生労働省との事前相談:
- 比較によって明確になった差異に基づき、目指すべき償還区分の妥当性について、少なくとも臨床試験(治験)を開始する前に厚生労働省産情課に事前相談します。
留意点:
- C2区分の承認は年間平均約25件と非常にハードルが高いです。
- 事前に情報を収集・分析し、投じるコストと時間が、得られるメリットに見合うか、よくよく検討することをお勧めします。
- C区分を目指す場合、治験段階から臨床的・医療経済上の有用性を示すデータを計画的に取得する必要があります。薬事承認と保険収載は、一体の戦略として開発初期から練り上げることが成功の鍵です。
- 規制当局は、薬事であれば製品の品質・有効性・安全性、保険であれば臨床的・医療経済的な有用性のみを評価します。薬事であればPMDAのRS相談、保険であれば厚労省産情課の事前相談のように、規制当局に直接相談できる制度がありますので、活用しましょう。
- 必要に応じて保険収載のコンサルタントも活用ください。