非医療機器製品の海外での医療機器展開 ~パロの事例から学ぶ~
日米欧では薬事規制が一定程度類似する部分はありますが、地域ごとに差異があり、基本的には各国の事情に合わせて対応していくことが必要となります。ここでは、アザラシ型ロボット「パロ (PARO)」の事例を考察します。
- 「パロ(PARO)」の製品概要
- アザラシ型メンタルコミットロボット「パロ(PARO)」は、日本の産業技術総合研究所(AIST)によって開発された、世界で最も成功した治療用ロボットの一つです。産総研:人間情報インタラクション研究部門 トピック 柴田崇徳
- 1993年の開発開始以来、パロは単なる愛玩用ロボット(玩具)の枠を超え、認知症ケア、疼痛緩和、精神的安定をもたらす非薬物療法介入ツールとして、世界30カ国以上で導入されています。
- 主要三地域、日本、米国、欧州においては、ほぼ同一のハードウェアでありながら、日本では「生活支援ロボット(福祉用具)」、米国では「医療機器」、欧州では「福祉テクノロジー」として社会実装されていることが注目すべきポイントです。
- 日本
- 日本では、パロは医薬品医療機器総合機構(PMDA)による薬事承認を受けておらず、非医療機器です。いわゆる「福祉用具」としての位置づけであり、公益財団法人テクノエイド協会が管理する「福祉用具情報システム(TAIS)」に登録されています。 用具詳細
- おそらく、本来の使用目的に加え、日本における医療機器承認プロセスの厳格さとコスト、および承認後の保険点数設定の難易度も考慮した判断と思われます。
- 厚生労働省や経済産業省、各自治体が実施する「介護ロボット導入支援事業」などの補助金スキームを活用することで、介護施設等が安価に導入できるようになっています。介護ロボット導入支援事業 - 愛知県
- *一方、将来的な医療機器化を準備中との情報あり。2022-osk04.pdf
- 米国
- 米国では、2009年にFDAから「神経学的セラピー用医療機器(Neurological Therapeutic Medical Device (Class II))」の承認を得ています。Development and spread of therapeutic medical robot, PARO: Innovation of non-pharmacological therapy for dementia and mental health
- 具体的には以下の症状に対する非薬物療法としての効果が謳われています。
- 不安 (Anxiety)
- 疼痛 (Pain)
- うつ (Depression)
- 認知症やPTSDに伴う行動障害(攻撃性、不穏、徘徊など)
- 米国では、保険償還の活用が可能となっており、医師や有資格のセラピスト(作業療法士、看護師等)がパロを用いて治療的介入を行った場合、その施術はCPTコード 90901 (Biofeedback training by any modality) として請求することができます。
- 保険償還が認められた背景には、パロの導入によって向精神薬の投与量を削減できるという「経済的エビデンス」があります。薬物療法に伴う副作用リスクやコストを低減できる点が、保険者(Payer)にとってもメリットとなるわけです。PARO as a Biofeedback Medical Device for Mental Health in the COVID-19 Era
- 欧州
- 欧州地域、特に北欧と英国においては、パロは「医療機器」としての規制要件を満たしつつも、社会実装の文脈では「福祉テクノロジー(Welfare Technology)」として、自治体や国営医療システムが予算を投じてインフラ的に導入するモデルが主流となっています。
- 特に、デンマークは最もパロの公的導入が進んでおり、デンマーク国内の80%以上の自治体が、高齢者ケア施設や障害者施設においてパロを採用しています。Playfulness and disruptions: using pet robots in everyday life in a nursing home for people with dementia | Ageing & Society | Cambridge Core
- 米国が「治療効果」を重視するのに対し、デンマークは「ケアの質の向上」と「介護スタッフの労働環境改善」を重視しています。パロの導入により、入居者の不穏行動が減れば、スタッフの身体的・精神的負担が減り、結果として社会コストが下がるという論理で公費投入が正当化されています。The benefits of and barriers to using a social robot PARO in care settings: a scoping review - PMC
- 考察
- パロの事例が示唆する重要な点は、海外展開に当たっては、単一のビジネスモデルにこだわる必要がないということです。
- 実際、法規制上も、日本で医療機器化することが、海外展開のしやすさに直結するわけではありません。
- むしろ、各地域の事情に合わせて、柔軟に対応することが事業の成功に必須であることを示しています。
- さらに、各地で臨床試験や実証試験を行い、長い時間をかけて現地で社会実装を実現してきた点も特筆すべきです。
- 製品外観は同じように見えても、中身はアップデートを繰り返しており、地域やユーザーの対象によって仕様が微妙に異なります。また、欧州、日本では雑品から医療機器化を図るなど、段階的に開発を進めています。
- 一足飛びでなく、着実に改善、進化し続けることが重要という気がします。